心に栄養を与えるということ

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 今の勉強を始めてこれまで以上に意識するようになったのが、心の状態です。これはその時々の「感情」という移ろい易くて、また周囲から影響を受けやすいタイプの心の動きというより、しばらくの間安定して自分の中に在る「ムード」みたいなものです。

 

 今回はそんな心の状態とその育み方について書きたいと思います。

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 心理学では、人間個体についてCognitive(思考、認知), Emotional(感情、気分), Behavioral(行動)の3側面に着目し、それぞれが互いに影響し合うことを前提に研究を行いますが、私たちが普段の生活を営むにあたってEmotionalな部分は蔑ろにされがちです。

 

 例えば、勉強や読書、思考術などCognitiveな鍛錬を積んで行動に移す(Behaviral)ことで結果が出るという枠組みの背景には、その人の心の状態(Emotional)が、思考の広さや深さ、人との接し方、継続のモチベーション、ここぞという時の馬力や安定感、自信といったパフォーマンスを発揮する上での重要なドライバーになっています。(※ バーバラ・フレデリクソンは、Positiveな心の状態にある人ほど行動に必要なリソースを蓄積して成功体験を積み、スパイラル的に更なる挑戦と成功を達成するというBroaden-Build Theoryを提唱しています。)

 

 しかしながら、自分のこれまでの様子を思い返してみると、認知面だけで行動を抑え込もうとして(例. 仕事だからやらなきゃいけない / こうすると良い結果が出せる)、その間に心に蓄積されたストレスは映画を見たり飲酒したりしてたまに発散させる傾向にあり、心を育んで思考や行動に前向きに結びつけることはほとんどできていなかった気がします。しかも、心の状態がよくないので、すぐイラついてしまったり、周りの人に親切な態度をとれなかったり、楽な方向にばかり仕事を進めてチャレンジを避けたりとマイナス面も目立ちました。

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 そんな感じで普段なかなか意識することのない心の状態ですが、心のモードとして大凡以下のものがあると考えていて、それらを上手にコントロールしながら、健全な心のポートフォリオを築いていくことが大切なんじゃないかと最近思うようになりました(もしかしたら正式なネーミングもあるのかも...)。

  • Mindlessモード:色々やらなきゃいけないことがあって、大きいことから小さいことまで常に何かしらのことが気になって心ここにあらずな状態。たぶん多くの人が日常的に抱いているのがこのモード。
  • Emptyモード:Mindlessモードの反動として、逆に何も心に浮かんでいない状態。テレビ見たりSNSやったり深酒したり、ひと時の休息的に心が空っぽになっているイメージです。

 普段私たちはMindlessモードとEmptyモードを行ったり来たりすることが多い印象です。そして、心を健全に保つためには次の3つのモードこそが効果を発揮すると思います。

  • Flowモード:目の前のチャレンジと自分の能力が高いレベルで均衡した時に突入する超集中モード。その特徴として極限の忘我状態が時間感覚すら狂わせると言われています。Flowに入ると達成感・高揚感が生まれ(フロー・ハイ)、またその経験が自己成長を促して更なるチャレンジへと向かわせます。
  • Savoringモード:Savoringとは「堪能する、噛みしめる」という意味です。過去の良い記憶、人との交流、今日あった出来事、芸術、映画、小説などを思い起こして、その時の感動とか感謝の気持ち、嬉しかった感情などをじっくりと噛み締め、心の状態を高めていきます。これに対して、嫌なこと・悪いことばかり思い出して「自分はダメな人間だ」と落ち込んでしまうことをRumination(反芻)と言って、鬱に繋がりやすいので気をつけてくださいね。
  • Mindfulモード:being mode(doing modeに対して、ただそこにある状態)とも言われ、このモードになるにはattention(注意)とawareness(気づき)が大切とされています。1つ1つの呼吸や聞こえてくる音、身体のコンディションなど「今この瞬間」に意識を集中させて、それらに価値判断を与えずnon-judgmentalに受け入れます。そして、その状態は自身をメタ的に捉えることに繋がり、いっときの感情や衝動に振り回されることなく、達観して自分と向き合うことができるようになります。Flowモードが超主観的な状態とされるのに対して、Mindfulモードは超客観的な状態とも言えます。

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 後半にあげた3つの心の状態に至るのは一朝一夕でできるものではなく、毎日少しずつ心を育んでいくことが欠かせません。最近はFlowとかMindfulnessという言葉をよく聞くようになり、瞑想を習慣としている人も増えてきていると思うので、今回はSavoringモードについて少し触れたいと思います。

 

 私たちは幸せを感じる機会に実は普段から接しているのですが、それを噛みしめる・味わうことをせず、作業的・事務的に流してしまっています(Mindless/Emptyモード)。例えば、ご飯を食べながら携帯をいじっていると、その味だとか目の前にいる人との時間を楽しむことなく、単に空腹を満たすという体験しか生まれません。また非日常的なイベント(結婚式、出産、旅行など)でも、幸福感を感じる程度には大きな個人差があります。これは遺伝的な要素ももちろんあるのですが、意識的にSavoringモードに入って自分のセンサーを高めているのか、ただ何となくイベント消化しているかの違いでもあります。

 

 Savoringモードで良いなと思うところは、今体験していることだけでなく、過去の記憶アセットに対しても如何なく効果を発揮することです。日々の体験を記録・蓄積して、それらを良い思い出としてたまに振り返るだけで、私たちは半永久的に幸せな気持ちになれます。ぜひスマホで出来事を写真や動画としておさめたら、携帯は一度しまって、その瞬間を堪能するようにしましょう。それが良い記憶のアセットを築いていくことになります。

 

 最後にSavoringモードを高めたい方向けに以下の本をお勧めします。幸せを感じられる日常の些細な瞬間を500個取り上げていて、遠い彼方にあってすっかり忘れていた私たちの記憶と結びつき、幸せな気持ちにしてくれます。ぜひ、あなたの心に栄養を与えて育んでいってあげてください。