幸せな日本人

 "Wellbeing"(ウェルビーイング)が欧米でブームになって暫く経ちます。ロンドンで本屋巡りなんかすると、多くの書店でウェルビーイング専門コーナーが設置されているのを目にしました。

 

 特に印象的だったのは、そのコンテクストで、日本的価値観が注目を集めていることです。例えば、実際にロンドンの本屋で撮影した以下の写真では、「生き甲斐」「改善」「禅」といった日本人なら誰もが聞いたことのあるワードのタイトルが並んでいます。

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 ここに、幸せな人生を歩む、日本人のポテンシャルを感じます。日本は毎年の幸福度ランキングでは先進国で後塵を拝する残念な状況ですが、私たちが古くから慣れ親しんできた価値観や文化、美学に、ウェルビーイングを高めるヒントが隠されているのです。実際に、"Meditation"(メディテーション)という欧米の瞑想文化も、禅の修行法が欧米に輸出されてブームになったものです。

 

 私は、留学前は駐在員として海外暮らしをしていて、ことあるごとに日本の良さ(食事、治安、几帳面さ等々)を痛感する生活を送っていたのですが、この1年間は特に日本文化の奥深さに気づかされるようになりました。

 

 その1つが「侘び寂び」です。

 

 「侘び」とは、貧しいことや足りていないことを肯定的に受け入れて、心の充足を見出すこと。「寂び」とは、時間の経過による衰えや劣化に趣を感じる、諸行無常観を指します。例えば、豪華絢爛な金閣寺よりも質素な銀閣寺に安らぎを感じたり、桜の花のすぐ散ってしまう姿に風情を見出したり、これらは侘び寂びの美学に由来するものです。

 

 そして、侘び寂びは、私たちの人生にも当てはめられる価値観だと思います。つつましいシンプルな生活や、老いて皺が刻まれていく姿に、どこか美しさを感じられる。完全な人生・完全であり続ける人生を送ることは不可能なのに、高価なモノ、若さ、美貌、社会的成功など、一時のピークを求めてそれにしがみつこうとする現代的価値観とは対照的な考え方です。

 

 1つ、日本の侘び寂びの美学に関する面白い記事を見つけました。下の写真は、サウジの王族が日本の皇室を訪問した際のもので、その応接室のシンプルでほぼ何もない佇まいが世界中で大きな称賛を得たそうです。王室といえば、煌びやかな装飾とインテリアに彩られた富の象徴というイメージがありますが、日本の皇室からはその対極にある美を感じ取ったのだと思います。

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 また、片付けコンサルタントとして世界的有名人となった「こんまり」こと近藤麻里江さんを引用した論文を時どき見かけます。ここまで彼女が注目されるのは、単に整理整頓のハウツーを提供したからじゃなく、「Spark joy」という言葉でモノに精神性を見出す、九十九神的な価値観を世界に伝えたからなのかもしれません。

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 日本固有の価値観は、その他にも「物の哀れ」とか「幽玄」とか様々なものがあり、茶道や金継ぎ、武道、俳句などの文化芸術にその精神が反映されています。コロナが落ち着いたら、そういった日本文化にもっと触れていきたいなと思います。