読者からのご質問

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 日本で再就職して早4ヶ月が経とうとしています。この間全く更新していなかった弊ブログですが、おかげさまで新規に読んでくださっている方達もいて、日本におけるポジティブ心理学の関心が高まってる!?とひっそりと嬉しさを感じています。

 

 さて、今回は読者の方から頂いた質問にお答えする形で、MAPPCP(イースロンドン大学ポジティブ心理学修士プログラム)についてより深く知ってもらいたいと思います。

 

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◼️質問

1.費用対効果:月イチ、週末3日間の授業だと思いますが、全体的な率直な感想をお聞かせください。

2.内容:ポジティブ心理学自体歴史が浅いですが、コーチングとドッキングしています。ご自身はどの辺りが留学して学んで、役に立った/立ちそうと思われていますか。

3.生活:授業はストラトフォードの校舎のみですか?図書館もここを利用されていましたか?お住まいはどの辺りでしたか? 授業回数(キャンパスへ行く頻度)が少ないと思いますが、クラスの人たちとの交流はどのような感じでしたか?

4.その他:企業でもWell-beingを目指す事業が出てきています。ただ、論文など(海外)をみても、ポジティブ心理学を応用するならこれ!この手法!理論!という確信が得られていません。この辺りのモヤモヤを払拭するためにおススメのテキストなどありますか?(読書の回のブログ拝見しています。業務ではデータサイエンスが重視されるケースが多いです)

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 上記4つの質問について、私なりの見解を以下に述べていきます。

 

1.費用対効果

 MAPPCPの授業は3週間に一度の週末(金土日)10:00-17:30で行われました。ご想像の通り、授業や予習、課題に忙殺される日々という訳ではなく、また必要最低限をこなしていく程度であれば時間に余裕も出てくるはずです。また、費用という点だと、MAPPCPの学費は他大と比べると格段に安いです。

 ですので、費用対効果は時間をどのように使うか次第で、目標と計画をもって勉強に取り組むことが大切だと思います。私は忙しすぎず暇すぎずな日々を過ごして、時間があれば大学からもらった論文リストから関心あるものを読み進めるといった感じ、またたまに散歩に出かけたりリフレッシュもして、総じて満足度は高いです。

 一方、物足りないところは、やはりクラスメートとのコミュニケーションが限られるところでしょうか。普段授業のない日は働いていたり、ロンドン外に居住している人も多いので、授業外で飲みに行ったり親睦を深める様な機会は正直多くなかったですね。

 

2.内容

 結論から述べると、コーチングを合わせて学べたことは非常に良かったです。これは学問全般に言えることかもしれませんが、研究職や専門職を除いて、学んだことを日常生活に具体的に活かしていくことは結構難しくて、留学が終わって仕事復帰すればたちまち学んだことから遠ざかってしまうことは少なくないと思います。そんな中、コーチングはそれに対する1つの処方箋になり得ます。

 というのも、コーチングは目標達成を支援するコミュニケーション技法であり、企業や組織、社会といった対人関係があるところ、またセルフコーチングという手法が意味するように自分自身との対話において、高い汎用性を持つスキルだからです。特にMAPPCPでは、ポジティブ心理学と組み合わせたコーチングを提唱しており、ポジティブ心理学を応用する実践方法に(途上ながらも)発展させています。学びを単なる自己学習で終わらせず、実社会と繋がるアプローチに出来るところが、いま振り返ってみて満足しています。

 

3.生活

 MAPPCPの授業は(メインキャンパスとは別の)Stratfordキャンパスでありました(正確にはStratfordにはキャンパスともう一つ大学施設があり、毎回どちらかの建物で授業が行われました)。住まいは、キャンパスとStratford駅の中間くらいにフラットシェアで住んでいて、ほぼ毎日キャンパス内の図書館に徒歩で通うような生活です。また、たまに電車で大英図書館に行ったりもしていました。

 クラスメートとの交流は上述のとおりですが、特に仲の良い数名とは日常的にwhatsupでやり取りしていて、授業外でもたまに会ったりはしてました。留学の醍醐味の1つはネットワークですが、毎日顔を合わせる環境がない分、やはり主体性は大事だとしみじみ感じましたね。。

 

4.その他

 これを読めば大丈夫!というのは難しいのですが....私が読んだ本だと「POSITIVE LEADERSHIP」とかはポジティブ心理学を組織づくりに応用する内容で参考になるかもしれません(欧米と日本の組織カルチャーの差はデカイですが)。あとは、GoogleのSearch Inside Yourselfはマインドフルネスを使って社員向けにwellbeingを実践する内容で面白かったです。

 それ以外だと、日本でも最近聞かれるようになった心理的安全性に関するもの、またグループコーチング関連の書籍等は企業への応用として良さそうです。(データサイエンスと直接的に関係ないのですが。。)

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 以上、思うままに書き綴りましたが、留学に関心ある方達の何らかの参考になれば嬉しいです!

留学を終えて 〜 私のTransformative Journey

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 修論がある程度形になり、卒業後の進路も決まったので、留学もいよいよ終わりになりました。

 

 当初の予定だと、帰国の日までヨーロッパを満喫して、最後ヒースローから東京行きの機中でこの1年間を思い出しながら余韻に浸るつもりだったんですが....実際は3月末から日本に帰ってきているので、何だかアイデンティティ不明の数ヶ月を過ごして、ひっそりと留学終了を迎えることに。まぁ、日本でゆっくり子育て出来たし、こういうどっちつかずな感じも自分らしくて良いかなとも思っています笑。

 

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 さて、この1年で世界はまたドラスティックに変化し、ポジティブ心理学コーチング心理学が果たす役割は更に大きくなったように感じます。

 

 消費者ニーズはモノからコトへ変化していると言われますが、havingからexperiencingの変化は今後beingへと、つまり私たち自身がどうありたいかを突き詰めていく欲求に移っていくのではないかと思います。経済力によって「幸せ」を成そうという考え方は科学的にも地球環境のサステイナビリティの面でも限界があることが分かり、これからは各々が新しいやり方で「幸せ」を実現していく形に徐々にシフトしていくでしょう。

 

 そして、MAPPCPでの1年間は、私が今後の人生で大切にしたいものに気づき、そのための道を歩んでいく納得感と楽観、そして勇気を与えてくれました。それは心理学が宗としている通り、頭で考えただけでなく、心(感情)で理解できたものでもあります。

 

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 ありたいように、なりたいように、日々を過ごす。忙しない日常を心ここにあらずに送るのではなく、目の前の出来事を味わって、当たり前と思っていたことに価値を感じて、普段の暮らしから楽しさ・豊かさを感じる。周りの人との繋がりを大事にし、その繋がりを社会に広げていく。

 

 コロナ禍による不透明で不可逆な未来が、そういった方向性へのドライブを強めていって、私たち一人ひとり、それぞれのペースで、それぞれのウェルビーイングを実現していける社会になることを期待しています。

 

 そして、私もその変化を作っていくために少しでも貢献できたなら、それはとても幸せなことでしょう。

ポジティブ心理学2.0と禅と修論と

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 自分や他者、社会の幸せについて考えるための学問がポジティブ心理学ですが、殊に自身の幸せという観点では、幸福を追求し過ぎると幸せになれないというパラドックスが指摘されています。

 

 これまでの研究で人々のウェルビーイング向上に繋がる様々な要素が提案されており、じゃあそれらをそのままフォローしたら良いんじゃないかとも思えるのですが、実はそう簡単な話でもないのです。

 

 その理由の1つは、「幸せ」を過剰に意識しすぎることで、幸せにならなければいけないというプレッシャーを感じてしまうことにあります。自分らしくありのままに生きることはウェルビーイングにとって大切だからといって、「自分らしくありのままに生きる」ことを強要されると本末転倒です。そして、それらの自身の「幸せ」に必要だと思うことに上手く対応できないと、自分は不幸に違いないと思い込んでしまう恐れもあり、結果として幸せからは遠ざかってしまうのです。

 

 なので、幸せは程よく適度に追い求めるのが良いというのが1つの教えでもあります。

 

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 この点について、異なる角度から捉えている方と話す機会がありました。それは、修論執筆のためインタビューさせて頂いた禅の僧侶の方です。

 

 修論のリサーチクエスチョンは、ウェルビーイングを構成する1つの要素である「meaning in life」(人生の意味)に対し、禅はどのように向き合っているのか、協力いただいた禅僧の方達の経験や生活への影響などを個別具体的に深掘りして、質的に考察するというものです。

 

 一般的に自身の「meaning in life」(人生の意味)に得心することは容易ではなく、どれだけ探求したとしても納得いく答えを見つけられないこともよくあります。冒頭の考え方に照らせば、そんなとき焦燥感を抱くのは良くなくて、いつかは見つかるだろうと気楽に構えているのがベターなんですが、今回インタビューを通して見えてきたものはまた異なる考え方でした。

 

 その禅僧の方がおっしゃっていたのは、人生に意味はないということ。そして人生は無意味だけれど、ただ生きているだけで私たちの存在は十分価値がある、それを日々自覚して生きているということです。

 

 私たちがこの世に生を受けたことが既に奇跡であって、その命の価値を自覚することができれば、人生の意味の有無にかかわらず、私たちは毎日の生活に幸せを感じることができます。それは、日々のあらゆることに感動して、関わる全ての人たちに感謝し、そして同じく奇跡的な生を受けた他者に尊敬の念を抱くということでもあります。実際に、このような生き方を実践されている今回インタビューに協力いただいた方々は皆さん高いウェルビーイングを感じられていました。

 

 この考え方の素晴らしいところは、自分の生活や感情にポジティブに働く事象にだけでなく、辛いことや苦しいことなどネガティブなことも受け入れて、そこに価値を感じようとする姿勢だと思います。また、SNSの普及によって多くの人と自分を比較できるようになり、それが自分の幸福尺度に大きな(そして多くはマイナスの)影響を与える中で、他者との比較ではなくて自分基準で物事を捉えることができる点も非常に効果的だと思います。

 

 どこかニーチェニヒリズムと超人思想に通ずるところがあるようにも思いますが、私たちの人生に対する見方を変える、いわば私たちのOSをアップデートする作業と言えるでしょう。

 

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 ポジティブ心理学は、これまで欧米的価値観に基づいて研究が進んできました。その中で、「meaning in life」(人生の意味)の重要性を提唱してきたのに対して、今回のリサーチでは"脱意味"に伴うウェルビーイングについてヒントが得られたように思います。

 

 特に最近は、欧米だけでなくアジア的価値観も包含して、より普遍的で応用的な研究を進めていこうという潮流があり、「ポジティブ心理学2.0」と呼ばれています。日本でもこの学問に興味を持つ人が増えて、日本からのインプットが進むことによって、世界の幸せの総量が増えていくと良いなと思います。