mskeria107の日記

アフリカ・南米・中東で活動する国際協力師。仕事の話、キャリアの話、雑多な話など。

【書評】一九八四年(ジョージ・オーウェル)

 ツイッターで関連ネタを目にすることもあり、読んでみようと思った本。「ビッグ・ブラザーは見ている」という文言を聞いたことがある人も少なからずいるかと思います。政府が国民を監視し統制して、反乱分子を処刑する全体主義国家を描いた作品です。(ちなみに、訳者あとがきによると、イギリスでの「読んだふり本」第一位にも掲げられる本のようで、教養人っぽく見られる本の定番でもあるようです。)

↓↓ ビッグ・ブラザー

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 舞台は1984年ですが、刊行は1949年。当時の社会背景は、第二次世界大戦が終わって冷戦が本格化する頃、ドイツ・イタリアなどの全体主義、欧米の西側資本主義、中露など東側社会主義など、色々な政治思想・体制が台頭して覇権争いをしていた時代です。なかなか自国以外の政治体制下の国の様子を窺い知るのは難しいですが、もし全体主義が覇権を手中に納めていたら、こういう国家になったのかなという1つのイメージを与えてくれる作品でした。

 ジョージ・オーウェルはまさに設定厨とも言える人物で、作中で様々な概念を作り上げ、それらを見事に統合させて1つの国家観を形成しています。世界の構図、身分格差の特徴、党のスローガンや政府機構、思想統制のための諸制度・言語設計、反乱分子の監視や拷問のシステムなどが綿密に定められ、理想的なTheディストピア国家が演出されています。

 抑圧され困窮しているにも関わらずほとんど全ての国民が盲目的に政府を支持する中、「ビッグ・ブラザー」という存在(というより概念)や全体主義という思想・体制を相手どり、主人公が反体制として少しずつ行動していきます。革命として国家を打ち倒すようなサクセスストーリではなく、個人として国家と対峙したときの1つのリアルな結論が導き出されています。

 資本主義システムも昨今問題視されてきていますが、やっぱり政府を批判的に捉えて自らも行動/表現できることの自由は素晴らしいと痛感します。また、北朝鮮など独裁国家の実情はもしかしたら「一九八四年」のものに近いのかもしれませんし、政府の統制と自由のバランスは程度の差こそあれどこの国であっても直面している問題のように思います。

 無理やり国際協力の話と繋げてみると、途上国における司法制度や法整備、また選挙制度整備といったグッドガバナンスに関する協力や、NHKのような国営放送が中立・正確・公平な情報を提供できるための支援を行いメディアの信頼性や権力システムからの独立性を高めるといったアプローチが「ビッグ・ブラザー」打倒に効果的でしょう。ただ、そうこうしている間にもビッグ・ブラザーに見られているかもしれませんが。

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トルコにおけるシリア難民支援(統計)

 前回記事で、トルコにおけるシリア難民支援の概要について紹介しました。今回は、トルコのシリア難民に関するデータをいくつか紹介して、難民流入の状況についてイメージを膨らませてもらえればと思います。
mskeria107.hatenablog.com

シリア難民内訳

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UNHCRからのデータ(2018年11月22日現在)です。これによれば、登録されているシリア難民は3,603,888人。男女比は若干男性が多いようです。特徴的なのは、17歳以下の子供は全体の約45%を占め、中でも0-4歳、5-11歳の層にある幼い子供たちが多いということがわかります。また、こちらのトルコニュース記事によれば、2011年以降トルコで約30万人のシリア難民の赤ちゃんが生まれているというのは、シリア難民の長期化・大規模化という現象を如実に表しています。

シリア難民数の推移 

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 トルコ政府内務省移民管理局からのデータ(2018年11月22日現在)です。 シリア内戦が始まった2011年から難民が発生しており、特に2015年までの伸び率は異常に高いです。また、2018年になってもシリア難民の登録数は増えていっていることが分かりますが、これはシリアからの純流入だけでなく、トルコ政府の登録機関がパンクして対応できていなかった申請を順次処理していること、またトルコで難民の赤ちゃんが誕生していることも要因として考えられるでしょう。

受入県トップ10(難民数)

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 同じくトルコ政府のデータ(2018年11月22日現在)からで、トルコにおいてどの県が最も多くのシリア難民を受け入れているかを表しています。ここから分かるのは、①トルコ最大の都市イスタンブールで最も多いシリア難民(558,805人)を受け入れていること、②シリアと国境を接する南東部の複数の県でシリア難民が多いこと、③上位4県でトルコにおけるシリア難民の50%以上が生活しているということです。

 ①についてはイズミールやブルサという大都市も同じ傾向であり、シリア国境から離れているにも関わらず、その経済規模から雇用機会を求めて多くの難民が流れているためです。また、②は、シャンルウルファ、ハタイ、ガジアンテップといった都市でもいずれも40万人超となっており、地理的に近いこと、イスタンブールなど大都市と比べて生活費を安く抑えられること、親戚が住んでいてツテをたどって、などが理由として挙げられます。 

受入県トップ7(人口比)

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 こちらは、各県で受け入れているシリア難民が県人口の何%に達しているかを示したグラフ(トルコ政府のデータ(2018年11月22日現在)から筆者作成)です。難民数が県人口の10%以上に達する上位7県を挙げていますが、いずれもシリア国境に近い南東部の県から成り立っています。上位4県が20%を超えており、特にキリス県では約90%に達していることは驚きです。キリス県に住む人の2人に1人がシリア難民となっています。

居住エリア

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 こちらは、シリア難民がどこに住んでいるかを表しています。難民キャンプでは157,083人が生活しており、全体の5%を下回っています。対して、キャンプに住んでいない、すなわち都市の中でトルコ人に混じって生活しているシリア難民が95%以上を占めています。難民キャンプはトルコ政府によって運営されていますが、流石に全難民を収容できるキャパシティはないことが、都市生活難民が大部分を占める理由となっています。

 

 以上、データからトルコにおけるシリア難民の状況を見てみました。一言で「難民」といっても、世代や性別、居住環境に違いがあり、また受入側からしても自治体によってその影響は大きく異なっています。現地の状況やニーズを確かめながら、どういった協力が必要なのか考えていくことが必要です。

 

トルコにおけるシリア難民支援(概要)

 トルコで国際協力をやっていて、私が担当している業務の1つにトルコにおけるシリア難民支援があります。シリアで内戦が起こり多くの難民が発生していることは周知ですが、その実態や生じている問題、またどういった支援がなされているのかについては、よく分からない人もいると思います。

 そこで本エントリーでは、私がトルコで難民支援に携わってきて見えてきた現地の様子について概要を紹介したいと思います。

シリア内戦の様子

 シリア内戦は2011年から2018年現在まで続いています。当時「アラブの春」と呼ばれる、長期独裁政権を倒して民主化を成し遂げようという運動が北アフリカ・中東地域の国々で起こり、これがシリアでも発生、過激化、内戦へと発展しました。内戦がここまで長期化している大きな理由に、外国の介入があります。現アサド政権の独裁を終わらせたい反政府軍側にアメリカ・欧州・トルコ・サウジアラビアといった国々が協力し、軍資金や武器などを供給、一方で欧米・サウジと対立するロシアやイランといった国がアサド支援側につく、代理戦争の格好です。さらに、テロ組織イスラム国がサードパーティーとして出現、また同じ陣営にいながらクルド人部隊の扱いで対立するトルコとアメリカ、アサド政権による化学兵器使用疑惑など、その関係性・状況はかなり複雑になっています。

 こうした状況下、多くのシリア人が国内で攻撃を受け、また外国へ避難する人達もその道中で事故に見舞われています。例えば、以下のニュースは当時世界に衝撃を与え、覚えている方もいるでしょう。

edition.cnn.com

www.huffingtonpost.jp

トルコにおけるシリア難民の現状

 シリア人の多くが国外に避難し、周辺国が受け入れているのですが、その中でも最大のシリア難民受入国は隣国トルコ。2011年以降かなりの難民を受け入れ、現在その数は350万人を超えています

 トルコにおけるシリア難民の特徴として、難民キャンプで生活する人は全体の1割ほど、残る9割はイスタンブールなど大都市やシリア国境に近いトルコ南東部の都市部で生活していることが挙げられます。また、シリア難民の多くは女性と子供が占め、難民生活の長期化によりトルコで生まれたシリア難民の子供達は既に30万人を超えているのです。 

シリア難民受入れの課題と支援方針

 国際協力の世界では、難民支援を行うとき支援のフェーズに応じて人道支援開発支援に分けて考えることが一般的です。「人道支援」とは難民の生命の保護や衣住食の確保に重きをおく緊急的な支援、「開発支援」とは難民に対する教育や職業支援などを通じて生活レベルの向上をなすことに重きをおいた支援を意味します。その内容からも分かるように、まず「人道支援」があって、その後「開発支援」と続きますが、この2つの支援を充分に、且つシームレスに行なっていくことがとても大切です。現在の支援フェーズがどちらにあるかは、対象エリアや世帯にもよるので断定が難しいのですが、トルコのシリア難民支援は徐々に「開発支援」にシフトしつつあると言えるでしょう。

 トルコにおけるシリア難民支援としては、大きく以下3つが挙げられます。

① 衣住食の確保

 トルコ政府はシリア難民向けキャンプを提供しています。上述の通り、キャンプで生活しているのはキャパシティの問題もあり全体の1割ほどですが、それでも約35万人と考えるとかなりの人数がキャンプ生活を送っていることとなります。

 トルコにおける難民キャンプはコンテナ式が主で、例えば同じくシリア難民を受け入れるヨルダンなどではテント式が主流と聞いたことがあるので、トルコのキャンプ環境は他国と比較してかなり整っていると思います。私もトルコでいくつかの難民キャンプを訪問しましたが、1世帯あたりある程度の居住スペースが確保され、また保育園や職業訓練施設、病院などを備え、シリア難民自身にキャンプの自治を担わせることで問題発見と対処を迅速かつ適切に行えうようにするなど、その環境に感銘を受けました。

 都市部においても必ずしも満足のいく住環境とは言えませんが、隣人のトルコ人から家具をもらったり、自治体から水道の無償提供があったり、NGOなどの支援を受けたりしながら貧しくも生活を行なっています。

② インフラの整備

 とは言っても、シリア難民の大部分は都市で生活する人たちですから、難民を受け入れる自治体にとっては都市機能の拡充が緊急且つ重要な課題となります。特に人口に占める難民数が多い自治体では、数十年先と予測していた人口数にわずか数年で達したため、都市開発計画を前倒して進めざるを得ない状況になりました。飲み水の供給や、生活下水やゴミ処理のためのインフラが不足し、シリア難民だけでなく、そこで生活するトルコ人の生活にも影響が出てしまっています。この後にも記載しますが、難民支援の難しいところに住民の理解を得られるかということがあります。住民から難民流入への過度な反発が生じないよう、国内政策と難民支援を上手くバランスさせられるかが大事なのですが、これまで当たり前のように機能していた公共サービスが難民の流入により支障をきたし始めると、やはり住民としてはその影響を考えざるを得ません。

③社会統合

 トルコ住民とシリア難民の対立・軋轢を生じさせないこと、そしてシリア難民を徐々にそのコミュニティの一員として機能させていくこと、この視点が現在トルコにおいて各援助機関が重視していることです。これを難民の社会統合(Social Cohesion)と呼んでいます。

 例えば、ドイツなど当初シリア難民の受け入れに積極的だったヨーロッパの国々では、国内の失業率等の高まりを受けて、その責任をシリア難民に転嫁する世論が急速に広がりました。その結果、EUは、トルコにシリア難民流入の防波堤的な役割を担ってもらう代わりにトルコに経済支援を行うことなどを約束し、これ以上の難民流入を防ぐことで何とか国内の不満に対処したわけです。

 このように「社会統合」は、難民が生活基盤を確立することだけでなく、難民を受け入れる地域の人々と難民とが共生する社会を実現させるものです。シリア難民の視点に立てば、トルコで教育を受けられて、働き先を見つけられて、また病院に通えたり地域活動に参加できたりすること、難民受入地域で暮らすトルコ人の視点に立てば、難民の境遇や文化、生活習慣を理解して、彼らをコミュニティの一員として認め対等な関係を築けるようになること、なのです。

 特にトルコでシリア難民の「社会統合」を進める際の大きな課題に言語の壁があります。トルコはトルコ語、シリアはアラビア語ですから、言葉が分からないとコミュニケーションがとれず、シリア難民は一層家に引きこもるようになります。また、宗教・価値観の違いもあります。両国ともイスラム教の国ですが、世俗的なトルコに比べるとシリアは、例えば女性が外で働かない、若いうちに結婚してたくさんの子供を持つなど、お互いの生活スタイルや価値観の違いも無視できません。(残念ながら「難民として受け入れてもらって支援を受けているくせに子供をたくさん持ちやがって」と思う人は少なくないのです。)

 こういった社会的・文化的な差異に気を配りながら、ホスト国と難民との溝を取り除き、社会に統合させていくための支援が行われています。

 

 と、ここまでトルコにおけるシリア難民支援の概要について書いてみました。次回以降、難民の実態や支援内容についてもう少し詳しく紹介できればと思っています。 

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