カメラを使って「人生の意味」と出会う(後編:実践)

f:id:mskeria107:20191205210104j:plain

 前回の記事では「人生の意味」(Meaning in Life)に関する研究や理論について紹介しました。後編の今回は、今期課題で私が実際に取り組んだカメラを使って人生の意味を探求する方法について書きたいと思います。

(前回記事はコチラ)

(今期課題についてはコチラから)

-----

 今回はこちらの実験(外部リンク)に基づく「Meaningful Photos」と呼ばれるアプローチを実践しています。同実験では、アメリカの大学生85名にデジタルカメラを与えて「あなたの人生を意味あるものにする被写体」を1週間で9-12枚程度写真に撮ってくるよう指示を与えました。そして1週間後に写真を出力して、学生に何を撮影したか、またなぜその被写体を選んだのか、各写真のキャプションとして書き出してもらいます。

 

 たったこれだけの作業ですが、写真を撮影する前後で、学生の「意味の出現」(Presence of Meaning)の度合いが向上し、「意味の探求」(Search for Meaning)度合いが逓減したことが分かりました。(意味の出現・探求については前編記事を参考ください。)またあわせて、ポジティブ感情の増加とネガティブ感情の減少も確認されています。このような変化が短期間で生じた仮説として、学生たちが自分の人生にとって意味があるものを再発見することができ、それら対象への感謝の気持ちを強めた点が指摘されています。

 

  これまでも「人生の意味」にアプローチする方法が提案されてきましたが、この「Meaningful Photos」の素晴らしいところは何と言ってもカメラを渡して自由に撮影させる視覚化を実践の中心に置いていることです。従来のやり方では「あなたにとって意味のあるものは何ですか?」などの質問に口頭・文章で答えてもらう言語化が主体で、内容が回答者の表現力や言語力に依ってしまうという制約がありました。一方でカメラによる視覚化では、被写体を正確に捉えるのはもちろんのこと、例えば陽の光が差した暖かい感じ、新鮮な空気感、愛に溢れた家庭の様子といった、言葉では正確に表現しづらい「雰囲気」までもビジュアルとして捉えることができます。「人生の意味」という抽象的で人それぞれ異なっているものを指すからこそ効果的なアプローチと言えるでしょう。

-----

 私も同研究で示される「Meaningful Photos」の方法に従って1週間かけて複数枚の写真を撮影してきて、最後にキャプションとして各写真に簡単な説明文を書きました。今はスマホで手軽に撮影できるので便利ですね。実際に撮影した写真+キャプションの一部を以下に貼ってみます。あくまでアウトプットの参考程度の意味合いなのでボカしまくりですが…。パートナー、家族、友人、知的好奇心、達成感とかがテーマです。

f:id:mskeria107:20191205202904j:plain
f:id:mskeria107:20191205202912j:plain

 

 そして、この前後でMLQ(Meaning in Life Questionnaire)という、自分の「人生の意味」の度合いを測定する質問表を使ってその変化をチェックしました。MLQは 10個の質問で構成されていて、5つが「意味の出現」と関係する質問(MLQ-Presence)、残り5つが「意味の探求」(MLQ-Search)と関係しています。また、複数言語に翻訳されていて、開発者であるSteger教授のHPに日本語版もあるので、ぜひ興味ある方はやってみてください。(以下からダウンロードできます。)

 今回「Meaningful Photos」を行う前後で、私のMLQスコアは次のとおり変化しました。

  • MLQ-Presence(意味の出現)25点 → 31点
  • MLQ-Search(意味の探求)30点 → 29点

(黄色マーカーがMLQ-Presence、青マーカーがMLQ-Searchスコアに関係しています。)

f:id:mskeria107:20191205204234j:plain

 結果、「意味の出現」度合いを示すMLQ-Presenceのスコアが大きく増え、「意味の探求」度合いを示すMLQ-Searchはそこまで変化しませんでした凡そ実験結果と同じ傾向で、自身の実感としてもこの結果に納得しています。

 

 まずMLQ-Presence(意味の出現)についてですが、この1週間で自分の人生にとって大切なものを改めて実感できました。これまで頭の中にぼんやりとあったものが、写真による視覚化で確かな輪郭を持って目の前に現れて、キャプションを通じて自身の言葉を与えて意味づけすることで、なぜその被写体が自分の人生で大切なのか脳にも心にも強く刻まれます。人は失って初めて大切なものの存在に気づくのだという古い言い回しがありますが(病気になって健康の有り難みを知るとかも)、それは単に日頃当たり前になり過ぎていて意識を向けられていない故の後悔であって、少しの時間を取って視覚化・言語化のプロセスを経ることで、後悔を伴わず大切なものを再発見することができます。それが感謝と意味ある人生への意志を持つことに繋がり、その変化はきっと人生を豊かなものにしてくれるはずです。

 

 また、MLQ-Search(意味の探求)スコアはそこまで変化がありませんでした。前編記事で指摘したように新しい意味を見つけ(ることで「意味の探求」度合いが下が)るのは容易でなく、Coherence・Purpose・Significanceといった3つの側面から考えるなど努力と積み重ね、閃き等を伴います。今回は1週間のみの期間限定だったのと、特に私の場合はその間ずっと家と図書館の往復で1日中図書館にこもる生活だったのも影響したかなと思います。普段行かない場所とか久しい友人に会うなど行動範囲を変えて色んな経験をしてみることも「意味の探求」のために効果的でしょう。一方で、同じく前編記事に書いたように、意味を探求し続ける姿勢はプロセス(努力)に重きを置く日本人の性格としてごく自然なことなのかもしれません。MLQ-Search(意味の探求)スコアが大きく下がったり(≒ 生活が満たされ、それ以上探求不要になる)、上がったり(≒ 新しい意味が必要になる)するのでなく、安定して長期にわたり「人生の意味」を探求し続けることは健全であるとも感じます。

-----

 如何だったでしょうか?この「Meaningful Photos」は、スマホがあれば誰でも簡単にできますので、ぜひやってみてください。普段なかなか意識しないことだからこそ効果は大きく、周囲への感謝の気持ちが生まれて人生をより豊かなものにしてくれます。

 

 ぜひあなたの「人生の意味」を見つけてみてください。

 "What do you live for?"(あなたは何のために生きていますか?)