TRANSTEC ー テクノロジーとWellbeingを結びつける
「TRANSTEC」という言葉をご存知でしょうか？
これは「TRANSformative TEChnology」のことで、スバリといった日本語訳を当てることは難しいのですが、私たちの生活を便利にしてくれるという一般的なテクノロジーの役割を超えて、「私たち自身（人間）を変化させるテクノロジー」という意味で使われる言葉で、アメリカやヨーロッパ等で特に注目を浴びている概念です。
私がポジティブ心理学の道を歩もうと思った背景について以前記事を書きましたが、その中でも触れたようにテクノロジーが果たす役割はこれまでになく大きくなっており、Wellbeingを達成するためにテクノロジーを活用するという考え方は今後広く一般的になっていくだろうと思います。
すでに欧米では「TRANSTEC」を体現するスタートアップが複数出てきており、マーケットの規模も大きい（Wellbeing産業のマーケット規模は3.7兆ドル、年平均成長率は10.6%とも言われています。）ことから投資家からの多くの注目を集めていますが、その一方で、日本ではまだまだ浸透していない概念だと思うので、今回は「TRANSTEC」について取り挙げたいと思います。
※主に以下サイトの内容を纏めました。
そもそもTRANSTECという概念が生まれた背景には「仕事、社会、テクノロジーの未来は人間の心の状態に依っている」という考え方があり、より良い未来を創っていくためには私たちの心の状態を高めていくことが何より重要という思想が根ざしています。これは、多くの問題を抱える現代社会を形作ってきたこれまでのあり方（仕事、社会、テクノロジーの発展に人間の心の状態が考慮されない）に対するアンチテーゼのようにも思います。
以下の写真はマズローの欲求5段階説（人間の欲求は、①生理的欲求→②安全欲求→③社会的欲求→④承認欲求→⑤自己実現欲求、のステージを経て導かれる。）に、従来のテクノロジーとTRANSTECを位置付けたものです。これによると、従来のテクノロジーは「①生理的欲求→②安全欲求」をカバーしていて、TRANSTECが「③社会的欲求→④承認欲求→⑤自己実現欲求」をカバーするとのこと。
多少こじつけのような気もしなくはないですが、従来のテクノロジーが我々の生活を便利にすることに焦点を置いているのに対し、TRANSTECは他者との関わり等を通じて自尊心を高めたり生活が（経済的な意味を超えて）豊かになることに焦点を置くという意味で、次元が異なるアプローチであることが理解できます。
更に興味深いのは、5段階説の頂点にもう1つ「Self-Transcendence」（自己超越）が追加されていることです。これはマズローが晩年に考え出した欲求ですが、禅の教えのように、自身のエゴから解き放たれて純粋に他者への献身や平和な社会を目指すという、欲求の最終到達段階になります。まさにマインドフルネスな状態であり、これまで長く辛い修行に耐えて身につけられると考えられていた心身状態にテクノロジーを使って近づけるのであれば、これほど素晴らしいことはありません。
また、TRANSTECの主なエリアとしては、以下図中の12個があげられています。ウェアラブルなどのセンサー技術、AIなどのデータ技術、脳波測定などの神経系技術といった、いずれも最先端のテクノロジーであり、心理学・脳科学・生体科学といった最先端の研究・知見との関わりが不可欠となります。
すでに欧米では多くのスタートアップが製品・サービスを提供しています。瞑想アプリのCalmだったり、快適な睡眠をモニターしてくれるOURAなど聞いたことがある人もいるかもしれませんが、その他にも本当にたくさんありますので、私も今後試しに色々使ってみて、良さそうなものがあれば本ブログでも紹介したいなと思っています。
以上ざっと見てきたようにTRASTECというのは非常に大きな概念であり、最先端の技術をどのように私たちの生活・生き方と結びつけていくのかという新たな指針を示してます。これまで主流であった、機械や技術を使って人間ができることを拡張していくという時代から、テクノロジーを使って私たち人間がどのような状態でいられるのかを目指す時代がすくそこに迫っているのです。
