自分のストーリーの作り方

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 人は、「こういった経験を積んできた私はこんな人間です」とこれまでの生き方をナラティブに解釈する癖があり、それを踏まえて「今後はこんな生き方をしていきます」と自分のストーリーを想像することを好みます。

 

 将来の仕事や生活のイメージは、何もないところからいきなり生まれるのではなく、過去から現在に至るヒストリーの延長線上に現れてくることが多いのです。ですので、将来やりたいことがないという人は、自分が大切にしてきたことや努力してきたことなど「これまで」を振り返ってみると、自然に「これから」の道しるべが浮かんできたりします。

 

 私たちは、その道しるべに沿って意思決定や行動をして、少しずつ自分のストーリーを紡いでいきますが、時にシナリオに無い展開に遭遇することがあります。そんなときは不安やストレスを感じるので、ありがちな選択としては、自分のオリジナルのプロットに戻るための行動をとります。

 

 しかし、この予想外の展開こそ、魅力的な人生のストーリーを作るヒントになるんじゃないかと思うのです。

 

 

 脚本術で有名なフレームワークに「起承転結」がありますが、その内の「転」は物語がガラッと変わるところ。主人公は、それまでの日常生活から離れて、危機に陥ったり、勇気が試されたり、重大な決断を迫られたりする印象的なシーンが続きます。それは、なかなか大変で辛い経験を伴うこともありますが、「転」があるから感動のクライマックスとして「結」が生まれます。逆に「転」が単調だと「結」もつまらなくなりがちです。

 

 人生における予想外の展開とは、まさにこの「転」のことです。何でもかんでも「転」を受け入れるのが良いとは言いませんが、印象的な「結」が導かれ得る「転」であれば、それに立ち向かう勇気を持つことも大切ではないでしょうか。

 

 

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 内省して自分自身を深く知ることは、幸せな生活を設計することに繋がりますが、価値観や意味性を突き詰めていくと、どうしてもこれまでの自分の生き方と一致しないところが見つかります。

 

 例えば、大企業でバリバリ仕事をしてキャリアを歩んでいる人が、実はそれが本当にやりたいことじゃないと気づいた場合。家族の期待や周囲からの評価もあり、小さい頃から勉強を頑張って、良い大学に受かって、努力して有名企業に入った経験を積んできた人は、その仕事に身を捧げて出世を果たし裕福な生活を送るという将来のストーリーを(無意識にでも)持っているはずです。

 

 そのストーリーを捨てて、自分のやりたいことを突き詰める決断をすることは容易ではありません。それまでの自分を否定することになりかねないからです。そして、年を重ねるごとに紡いできたストーリーは厚くなり、心理的ハードルも大きくなります。

 

 これはポジティブ心理学で幸福追求のダークサイドと表現されたりしますが、新しい道を歩む決断(「転」)をしたがために、バッドエンドに見舞われる可能性も否定できません。そこにはハッピーエンド(「結」)を実現するための努力(と時に運)が不可欠です。

 

 

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 ただ私は、この点についてはもっと楽観的になっても良いと思っています。

 

 その理由の1つにインパクトバイアスが挙げられます。これは、人はネガティブな事象について過度に悪い結果を予想してしまうというバイアスのことで、実際に事が起こってみたら思ったより大したことなかったということは結構あります。このバイアスのために、起こりもしない最悪の結果を予想して、私たちはチャレンジを避けてしまいがちなのです。

 

 また冒頭に、人間はナラティブに経験をとらえる癖があると書きました。つまり、私たちには、自分の最新の状況に応じてストーリーを随時更新するコーピング(ストレス対処法のこと)の術が備わっています。予想外の事態に不安を抱いたとしても、それは一時的なもので、暫くするとその不測を折り込んだ新しいストーリーを作っていくことができるのです。

 

 例えば、不幸にも事故で障害を持ってしまった人は、事故直後には絶望を感じますが、時が経過するとその事実を受け入れ、新しい人生を歩み始めます。そして中には、障害によって新しい気づきや人間関係を得ることができたと、自身の経験に感謝する人もいるのです。

 

 このように、人生における「転」はそこまで恐ろしいものではなく、文字通りピンチはチャンスと言えるものなのです。

 

 

 これから歳を重ねていって、孫に昔話を聞かせたり、自伝を書いてみたりしたときに、「アルマゲドン」のように壮大なとまでは言わないですが、魅力的なストーリーを語れるように、「転」のある人生を歩んでいきたいものです。

 

(などと、今後のキャリアに絶賛悩み中の自分を励ます意味も込めて本記事を書いてみました笑)