科学的に実証されている「幸せ」になるための方法

 「ポジティブ心理学」は古代ギリシャの哲学者ソクラテスアリストテレスをはじめ、人類が長きに渡って追求し続けてきた「幸せとは?」という問いに、現代の科学的手法を用いてアプローチする学問です。

 現代社会のコンテクストの中でその研究の意義が高いことは言うまでもありませんが、比較的新しい学問であり、また扱う対象がかなり曖昧で広大な概念であることから、「幸せとは?」という究極的問いへの確固たる答えを提示するには到底いたっていません。その一方で、(政策や経済などマクロの話とは別に)個人の「幸せ」に直接関係するミクロの処方箋としては、すでに具体的な方法やツールというものが複数提案されています

 今回はその「幸せ」の処方箋について取り上げてみたいと思います。理論的には、処方箋の仕組みを理解して自分自身に応用させることができれば、あなたも「幸せ」になれるはずです!(ただ実際は、これら処方箋への更なる検証は必要だし、「幸せ」には各人が置かれている状況や育ってきた環境、性格など複雑な要因が絡むので、そう単純でもないのですが。。)

 以下3つの視点に分けて紹介したいと思います。まず、研究により「幸せ」の正体を特定し、次に診断により自身がどの程度・どのように「幸せ」かを理解、最後に処方によって一歩先の「幸せ」を達成します。また、大事なことは処方後に再度診断を行なって、「幸せ」の状態をレビューし、新たな処方を検討していくことです。

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1. 研究:「幸せ」とは?

 「幸せ」ってどんな状態?「幸せ」に必要な要素は?どういった人が幸せになれるの?…、などの問いへの研究が行われています。

 例えば、「『幸せ』ってどんな状態?」という問いに対し、ポジティブ心理学創始者であるセリグマン教授は以下のような定義を置いています。

f:id:mskeria107:20191021000157p:plain 今この瞬間の快楽も大切だけど、それだけじゃなくて、自分が夢中になれること、社会との繋がりや貢献の要素も「幸せ」を構成しているんだとの指摘は、すっと私たちの腹に落ちてくるものです。その分、いざ自分自身の生活を振り返ってみたとき、定義される「幸せ」との乖離を感じる人も多いのではないでしょうか?

 この他にも「幸せ」の定義は複数あり、様々な角度から「幸せ」の研究が進んでいます。例えば、遺伝的要素が「幸せ」に与える影響は50%で残り半分は後天的に獲得できるとか、ショッピングモールにおける買物客はmaximizer(全店からベストな商品を見つける)よりsatisficer(必要要件を満たす商品であればOK)の方が幸福度が高い、などなど面白そうな研究がたくさんあり、「幸せ」の形をどんどん浮き彫りにしています。

2. 診断:あなたは「幸せ」?

 研究で「幸せ」って大体こういうことだよね、こういう要素が必要だよね、ということが分かってくると、じゃあ私は今どれほど幸せなんだろうか?という疑問が生まれてきます。それに応えるため、自分の状態をセルフチェックできるツールが開発されており、その1つが上述のセリグマン氏が開発したPERMAです。PERMAという名称は、幸せを構成すると考えられる5つの要素(Positive emotion、Engagement、Relationships、Meaning、Accomplishmentの)のアクロニムになっています。

 以下サイトから実際にPERMAを受けることができます。「あなたはどれぐらい意義のある生活を送っていますか?」などの問い(計23問)に0〜10の数字を選択して回答し、自身の状態が診断されます。

www.authentichappiness.sas.upenn.edu

 ちなみに今回受けてみた私の結果は以下の通りでした。5が平均で10が最高なので、HappyやHealthの項目は高いですが、RelationshipsやNegative affectでは課題がありそうです。。ロンドンに来て1人の時間が多くなっているのが原因かもしれません。。

※ M:Meaning、A:Accomplishment、P:Positive emotion、E:Engagement、R:Relationships、N:Negative affect

※以下は抜粋です。実際はもう少し詳細なレポートが出力されます。

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 なお、上で紹介したペンシルバニア大学のHPにはPERMA以外の診断ツールも複数紹介されていますので、ぜひ自身にあったものを探してみてください。

3. 処方:「幸せ」になる方法 

 診断で自身の状態が分かれば、「幸せ」を促している要素や妨げている要素に基づいて生活を見直していくことになります。その際に役立つのが処方ツールです。メンタルヘルス領域で使われるコーピングと呼ばれるストレス対処法や、マインドフルネスを鍛えられる瞑想など聞いたことがあるかもしれません。この他にも目的が異なる様々な方法が開発されていますが、ここでもセリグマン氏が開発した「Three good things」について紹介したいと思います。

 「Three good things」は、その名の通り、1日にあった良いことを3つ寝る前に書き出すというもの。例えば、ランチが美味しかった、天気が良かった、友達と久々に会ったなど、日常の些細なことを含めて書き出してみます。ここで大事とされているのは、今日という1日を充実した実りある1日だったとして振り返り整理することです。

 比較研究においては、実際にこの処方を1週間続けた実験群の幸福度が高まったことが確認されています。 良いことの他に、例えば周囲への感謝や、自分を褒めてあげたいことなど、その範囲を広げていくことで、他者との関係回復や自己肯定力の向上といった「幸せ」にとって大事な要素に影響を与えていくことができます。

 そして、一定期間の処方を終えたところで、実際に自身の状態に変化があったかどうか調べるため、診断に戻って再度セルフチェックを行ってみましょう。ここで注意が必要なのは、繰り返し述べているように、研究・診断・処方には様々な考え方や方法がありますので、自身の状況にあった組み合わせを選択することです。 

 

 ちなみに今タームの課題の1つが、診断と処方を自由に選んで実践し、自分の幸福度にどのような変化があったかレポート、関連する研究に対する考察を行うことになっています。現在鋭意実施中なので、もし良い考察に繋がりそうであれば、ブログで紹介したいなと思います。