幸せなお金との付き合い方
以前「幸せなキャリアの見つけ方」というタイトルで、ただ単にキャリアアップしていくのはあなたの幸せにとって良くないかもよ、ということを書いたんですが、今回はただ単にお金を稼いで使うのは良くないかもよという話です。
キャリアもお金もない私ですが、決してルサンチマン的発想の記事ではなくて...ポジティブ心理学におけるお金関係の研究を皆さんの参考にしてもらえればと思った次第です。(きっと「お金が全てじゃない」と経済的成功者に言われてもムカつくだけとも思いますし。。)
1. ある程度の収入に達したら幸福度は停滞する
幸福には、あなたが慣れ親しんで不自由を感じない生活が営める程度の所得があれば十分という研究結果があります。そのため、ある程度の収入に達するまで幸福度は上昇するのですが、それ以降は伸び悩みます。2010年にアメリカで行われた研究では、収入が75,000ドル/年を越えると幸福度は停滞したという結果が出ています。対象世帯の特徴や物価水準などアメリカ特有の事情もあるので、これを日本に当てはめたら、おそらくもっと金額の域値は下がるはずです。(日本の世帯年収は平均500万円ちょいなので、その辺りで落ち着くのでは?)
ある時点から幸福度が伸び悩んでしまう理由は、幾つか指摘されています。1つは、収入は労働の対価で得られるものなので、高収入を目指すほど家族と過ごす時間や趣味に当てる時間がなくなって、また仕事のストレスや疲労も溜まるので、幸福に悪影響をもたらすという点です。
そして、人は置かれた状況にすぐ慣れるという性質も指摘されています。良い車を買って豪華な家を建てても、しばらくの間は満足感を得られますが、その環境が当たり前になってしまって、幸福度は元の水準に戻ります。加えて、お金&モノに執着する人ほど生活水準を上げ続けたい欲求があるので、仕事のハードさを増し続けるスパイラルにはまります。
お金のために生きる、高価なモノのために働く、といった発想に陥らないことが大切です。
2. 自分のためではなく、他の人のためにお金を使おう
もしあなたが、ある程度満足のいく生活を送れていて、それ以上の収入を得ていたとしたら、そのお金を誰か他の人のために使うと幸福度がアップするという研究結果があります。例えば、両親を旅行に招待したり、友人へプレゼントを贈ったり、慈善活動のために寄付したりです。
誰かに何かをしてあげたら、その人から感謝され、また別の形でお返しを受けます(返報性の法則)。それが長く続く人間関係を育んだり、感謝されることで自身の価値を再確認することに繋がります。
ビルゲイツなど世界トップクラスの資産家が慈善活動を行っている理由の1つは彼ら自身が幸せを感じられるからです。ただ、金額の大きさ自体は重要ではなく、どのように・どのような思いでお金を使うかというHowの方が大切です。
つい先日、私も知人のクラウドファンディングにほんの小額で参加したのですが、そうするとやっぱりその人と会話が生まれたり、感謝されて嬉しくなったり、良いお金の使い方をしたと満足感が高まったりするんですよね。献血したときに得られる感覚も似たようなものだと思ってます。
3. 物を買うより経験を買おう
1.で記載した通り、私たちは置かれた状況にすぐ慣れてしまいます。そのため高価な物を買っても幸福はすぐ消えてしまいます。では、どうするのが良いのかというと、経験を買うことです。
例えば、旅行に行ったり、少し背伸びしたレストランで食事するといった経験は、短期間(長くても旅行で1−2週間とか)で完了するので、まず慣れるということがありません。満足したままで経験を終えて、そのあとは撮った写真を見返したり、経験を共有した人と思い出話をするたび、当時の幸福感が蘇ってきます。
一方で、形に残らない経験にお金を使うことを躊躇する人は少なからずいると思います。実際の研究でも、経験より物を買った方が幸せになれるだろうと予測する人は多いのですが、消費行動後の幸福度を調べると正反対の結果が出ています。
また、物欲が高い人ほど他人と比べてしまう傾向があるようです。例えば、隣人より良い車を買っても、向かいに越してきた人が更に良い車を持っていたら、それが気になってしまいます。そして上を見上げたらキリがありません。それとは反対に、経験というのは十人十色なので、なかなか比較しづらいという点も優れているのです。
また面白いのが、第3者から、物欲が高い人は「Selfish」とか「Judgmental」と印象を持たれがちな一方、経験を好む人は「Humorous」「Friendly」と見られるという研究もあり、経験が人間関係の形成にも役立つことが分かります。身近にいる面白い人って、いろんな経験してる人が多くないですか?
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自分のストーリーの作り方
人は、「こういった経験を積んできた私はこんな人間です」とこれまでの生き方をナラティブに解釈する癖があり、それを踏まえて「今後はこんな生き方をしていきます」と自分のストーリーを想像することを好みます。
将来の仕事や生活のイメージは、何もないところからいきなり生まれるのではなく、過去から現在に至るヒストリーの延長線上に現れてくることが多いのです。ですので、将来やりたいことがないという人は、自分が大切にしてきたことや努力してきたことなど「これまで」を振り返ってみると、自然に「これから」の道しるべが浮かんできたりします。
私たちは、その道しるべに沿って意思決定や行動をして、少しずつ自分のストーリーを紡いでいきますが、時にシナリオに無い展開に遭遇することがあります。そんなときは不安やストレスを感じるので、ありがちな選択としては、自分のオリジナルのプロットに戻るための行動をとります。
しかし、この予想外の展開こそ、魅力的な人生のストーリーを作るヒントになるんじゃないかと思うのです。
脚本術で有名なフレームワークに「起承転結」がありますが、その内の「転」は物語がガラッと変わるところ。主人公は、それまでの日常生活から離れて、危機に陥ったり、勇気が試されたり、重大な決断を迫られたりする印象的なシーンが続きます。それは、なかなか大変で辛い経験を伴うこともありますが、「転」があるから感動のクライマックスとして「結」が生まれます。逆に「転」が単調だと「結」もつまらなくなりがちです。
人生における予想外の展開とは、まさにこの「転」のことです。何でもかんでも「転」を受け入れるのが良いとは言いませんが、印象的な「結」が導かれ得る「転」であれば、それに立ち向かう勇気を持つことも大切ではないでしょうか。
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内省して自分自身を深く知ることは、幸せな生活を設計することに繋がりますが、価値観や意味性を突き詰めていくと、どうしてもこれまでの自分の生き方と一致しないところが見つかります。
例えば、大企業でバリバリ仕事をしてキャリアを歩んでいる人が、実はそれが本当にやりたいことじゃないと気づいた場合。家族の期待や周囲からの評価もあり、小さい頃から勉強を頑張って、良い大学に受かって、努力して有名企業に入った経験を積んできた人は、その仕事に身を捧げて出世を果たし裕福な生活を送るという将来のストーリーを(無意識にでも)持っているはずです。
そのストーリーを捨てて、自分のやりたいことを突き詰める決断をすることは容易ではありません。それまでの自分を否定することになりかねないからです。そして、年を重ねるごとに紡いできたストーリーは厚くなり、心理的ハードルも大きくなります。
これはポジティブ心理学で幸福追求のダークサイドと表現されたりしますが、新しい道を歩む決断(「転」)をしたがために、バッドエンドに見舞われる可能性も否定できません。そこにはハッピーエンド(「結」)を実現するための努力(と時に運)が不可欠です。
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ただ私は、この点についてはもっと楽観的になっても良いと思っています。
その理由の1つにインパクトバイアスが挙げられます。これは、人はネガティブな事象について過度に悪い結果を予想してしまうというバイアスのことで、実際に事が起こってみたら思ったより大したことなかったということは結構あります。このバイアスのために、起こりもしない最悪の結果を予想して、私たちはチャレンジを避けてしまいがちなのです。
また冒頭に、人間はナラティブに経験をとらえる癖があると書きました。つまり、私たちには、自分の最新の状況に応じてストーリーを随時更新するコーピング(ストレス対処法のこと)の術が備わっています。予想外の事態に不安を抱いたとしても、それは一時的なもので、暫くするとその不測を折り込んだ新しいストーリーを作っていくことができるのです。
例えば、不幸にも事故で障害を持ってしまった人は、事故直後には絶望を感じますが、時が経過するとその事実を受け入れ、新しい人生を歩み始めます。そして中には、障害によって新しい気づきや人間関係を得ることができたと、自身の経験に感謝する人もいるのです。
このように、人生における「転」はそこまで恐ろしいものではなく、文字通りピンチはチャンスと言えるものなのです。
これから歳を重ねていって、孫に昔話を聞かせたり、自伝を書いてみたりしたときに、「アルマゲドン」のように壮大なとまでは言わないですが、魅力的なストーリーを語れるように、「転」のある人生を歩んでいきたいものです。
(などと、今後のキャリアに絶賛悩み中の自分を励ます意味も込めて本記事を書いてみました笑)
留学してからの本棚
読書は細々とした習慣になっていて、特にジャンルを絞らずあれこれ読んできたのですが、留学してからは専ら心理系・コーチング系の本が多くなっています。ただ、ポジティブ心理学とコーチングは、日本でそこまでメジャーじゃないのもあってか、良書と呼ばれる日本語の本は多くなく、他方で英書だと冊数豊富で内容も充実している印象があります。(英語だと読むのに時間がかかるので、積極的に手を出せてはいないのですが...。)
以下は、MAPPCPに入ってから読んだor読んでいるor積読してる...私のキンドルのスクリーンショットです。厳選した本というよりアマゾンunlimitedなども活用しながらとりあえずダウンロードしたものも含まれてるんですが、少なくとも半分は面白かったと記憶しているので、この分野に関心ある方はよかったらアマゾンレビューなども参考にしながら当たってみてください。(「夜と霧」はこちらに書評も書きました。)
あとペーパーバックだと以下を読みました。こちらは面白かったものだけピックアップしたので、いずれもお薦めです。英書4つはMAPPCPのコアテキストになっています。
この他インプット系だと、ジャーナル、論文、動画(Youtube, TED)、MOOC、Podcastなんかも使っています。皆さんのお勧めもぜひ教えてください!