mskeria107の日記

アフリカ・南米・中東で活動する国際協力師。仕事の話、キャリアの話、雑多な話など。

トルコにおけるシリア難民支援(概要)

 トルコで国際協力をやっていて、私が担当している業務の1つにトルコにおけるシリア難民支援があります。シリアで内戦が起こり多くの難民が発生していることは周知ですが、その実態や生じている問題、またどういった支援がなされているのかについては、よく分からない人もいると思います。

 そこで本エントリーでは、私がトルコで難民支援に携わってきて見えてきた現地の様子について概要を紹介したいと思います。

シリア内戦の様子

 シリア内戦は2011年から2018年現在まで続いています。当時「アラブの春」と呼ばれる、長期独裁政権を倒して民主化を成し遂げようという運動が北アフリカ・中東地域の国々で起こり、これがシリアでも発生、過激化、内戦へと発展しました。内戦がここまで長期化している大きな理由に、外国の介入があります。現アサド政権の独裁を終わらせたい反政府軍側にアメリカ・欧州・トルコ・サウジアラビアといった国々が協力し、軍資金や武器などを供給、一方で欧米・サウジと対立するロシアやイランといった国がアサド支援側につく、代理戦争の格好です。さらに、テロ組織イスラム国がサードパーティーとして出現、また同じ陣営にいながらクルド人部隊の扱いで対立するトルコとアメリカ、アサド政権による化学兵器使用疑惑など、その関係性・状況はかなり複雑になっています。

 こうした状況下、多くのシリア人が国内で攻撃を受け、また外国へ避難する人達もその道中で事故に見舞われています。例えば、以下のニュースは当時世界に衝撃を与え、覚えている方もいるでしょう。

edition.cnn.com

www.huffingtonpost.jp

トルコにおけるシリア難民の現状

 シリア人の多くが国外に避難し、周辺国が受け入れているのですが、その中でも最大のシリア難民受入国は隣国トルコ。2011年以降かなりの難民を受け入れ、現在その数は350万人を超えています

 トルコにおけるシリア難民の特徴として、難民キャンプで生活する人は全体の1割ほど、残る9割はイスタンブールなど大都市やシリア国境に近いトルコ南東部の都市部で生活していることが挙げられます。また、シリア難民の多くは女性と子供が占め、難民生活の長期化によりトルコで生まれたシリア難民の子供達は既に30万人を超えているのです。 

シリア難民受入れの課題と支援方針

 国際協力の世界では、難民支援を行うとき支援のフェーズに応じて人道支援開発支援に分けて考えることが一般的です。「人道支援」とは難民の生命の保護や衣住食の確保に重きをおく緊急的な支援、「開発支援」とは難民に対する教育や職業支援などを通じて生活レベルの向上をなすことに重きをおいた支援を意味します。その内容からも分かるように、まず「人道支援」があって、その後「開発支援」と続きますが、この2つの支援を充分に、且つシームレスに行なっていくことがとても大切です。現在の支援フェーズがどちらにあるかは、対象エリアや世帯にもよるので断定が難しいのですが、トルコのシリア難民支援は徐々に「開発支援」にシフトしつつあると言えるでしょう。

 トルコにおけるシリア難民支援としては、大きく以下3つが挙げられます。

① 衣住食の確保

 トルコ政府はシリア難民向けキャンプを提供しています。上述の通り、キャンプで生活しているのはキャパシティの問題もあり全体の1割ほどですが、それでも約35万人と考えるとかなりの人数がキャンプ生活を送っていることとなります。

 トルコにおける難民キャンプはコンテナ式が主で、例えば同じくシリア難民を受け入れるヨルダンなどではテント式が主流と聞いたことがあるので、トルコのキャンプ環境は他国と比較してかなり整っていると思います。私もトルコでいくつかの難民キャンプを訪問しましたが、1世帯あたりある程度の居住スペースが確保され、また保育園や職業訓練施設、病院などを備え、シリア難民自身にキャンプの自治を担わせることで問題発見と対処を迅速かつ適切に行えうようにするなど、その環境に感銘を受けました。

 都市部においても必ずしも満足のいく住環境とは言えませんが、隣人のトルコ人から家具をもらったり、自治体から水道の無償提供があったり、NGOなどの支援を受けたりしながら貧しくも生活を行なっています。

② インフラの整備

 とは言っても、シリア難民の大部分は都市で生活する人たちですから、難民を受け入れる自治体にとっては都市機能の拡充が緊急且つ重要な課題となります。特に人口に占める難民数が多い自治体では、数十年先と予測していた人口数にわずか数年で達したため、都市開発計画を前倒して進めざるを得ない状況になりました。飲み水の供給や、生活下水やゴミ処理のためのインフラが不足し、シリア難民だけでなく、そこで生活するトルコ人の生活にも影響が出てしまっています。この後にも記載しますが、難民支援の難しいところに住民の理解を得られるかということがあります。住民から難民流入への過度な反発が生じないよう、国内政策と難民支援を上手くバランスさせられるかが大事なのですが、これまで当たり前のように機能していた公共サービスが難民の流入により支障をきたし始めると、やはり住民としてはその影響を考えざるを得ません。

③社会統合

 トルコ住民とシリア難民の対立・軋轢を生じさせないこと、そしてシリア難民を徐々にそのコミュニティの一員として機能させていくこと、この視点が現在トルコにおいて各援助機関が重視していることです。これを難民の社会統合(Social Cohesion)と呼んでいます。

 例えば、ドイツなど当初シリア難民の受け入れに積極的だったヨーロッパの国々では、国内の失業率等の高まりを受けて、その責任をシリア難民に転嫁する世論が急速に広がりました。その結果、EUは、トルコにシリア難民流入の防波堤的な役割を担ってもらう代わりにトルコに経済支援を行うことなどを約束し、これ以上の難民流入を防ぐことで何とか国内の不満に対処したわけです。

 このように「社会統合」は、難民が生活基盤を確立することだけでなく、難民を受け入れる地域の人々と難民とが共生する社会を実現させるものです。シリア難民の視点に立てば、トルコで教育を受けられて、働き先を見つけられて、また病院に通えたり地域活動に参加できたりすること、難民受入地域で暮らすトルコ人の視点に立てば、難民の境遇や文化、生活習慣を理解して、彼らをコミュニティの一員として認め対等な関係を築けるようになること、なのです。

 特にトルコでシリア難民の「社会統合」を進める際の大きな課題に言語の壁があります。トルコはトルコ語、シリアはアラビア語ですから、言葉が分からないとコミュニケーションがとれず、シリア難民は一層家に引きこもるようになります。また、宗教・価値観の違いもあります。両国ともイスラム教の国ですが、世俗的なトルコに比べるとシリアは、例えば女性が外で働かない、若いうちに結婚してたくさんの子供を持つなど、お互いの生活スタイルや価値観の違いも無視できません。(残念ながら「難民として受け入れてもらって支援を受けているくせに子供をたくさん持ちやがって」と思う人は少なくないのです。)

 こういった社会的・文化的な差異に気を配りながら、ホスト国と難民との溝を取り除き、社会に統合させていくための支援が行われています。

 

 と、ここまでトルコにおけるシリア難民支援の概要について書いてみました。次回以降、難民の実態や支援内容についてもう少し詳しく紹介できればと思っています。 

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